自然数全体の集合の非単項超フィルターによる超冪の濃度について

本稿では、自然数の集合 $\mathbb{N}$ の非単項超フィルター (non-principal ultrafilter) $U$ による超冪 (ultrapower) ${}^*\mathbb{N} = \mathbb{N}^\mathbb{N}/U$ の濃度が、連続体濃度 (cardinality of the continuum) $2^{\aleph_0}$ に一致することを示します。この事実は、超準解析 (nonstandard analysis) やモデル理論 (model theory) において、無限小や無限大を含む超実数体の基盤となる重要な定理です。理解を深めるため、フィルターや超冪の基本定義から始め、具体的な例を交えながら、Cantor-Bernstein-Schröder の定理を用いた厳密な証明を展開します。

1. 基本概念の定義

定義 1 (フィルター)
集合 $X$ 上のフィルター (filter) とは、$X$ の部分集合の族 $F \subset \mathcal{P}(X)$ であり、以下の条件を満たすものである:
定義 2 (超フィルター)
$X$ 上のフィルター $U$ が超フィルター (ultrafilter) であるとは、任意の $A \subset X$ に対して、$A \in U$ または $X \smallsetminus A \in U$ のいずれか一方が成り立つことである。これは、包含関係に関して極大なフィルターであることと同値である。
定義 3 (単項超フィルターと非単項超フィルター)
$X$ 上の超フィルター $U$ について、ある点 $x \in X$ が存在して $U = \{ A \subset X \mid x \in A \}$ と表せるとき、$U$ を単項超フィルター (principal ultrafilter) と呼ぶ。そうでないとき、$U$ を非単項超フィルター (non-principal ultrafilter) または自由超フィルター (free ultrafilter) と呼ぶ。

非単項超フィルターは、すべての余有限集合(補集合が有限である集合)を要素として含むという重要な性質を持っています。具体的な例を以下に示します。

例 1 (余有限フィルターと非単項超フィルター)
$X = \mathbb{N}$ とし、有限集合の補集合全体の族 $F_{\text{cf}} = \{ A \subset \mathbb{N} \mid \mathbb{N} \smallsetminus A \text{ は有限集合} \}$ を考えると、これはフィルターとなる。これを余有限フィルター (cofinite filter) または Fréchet フィルターと呼ぶ。Zorn の補題を用いることで、$F_{\text{cf}}$ を含む極大フィルター(すなわち超フィルター) $U$ の存在が示される。この $U$ は有限集合を一切含まないため、非単項超フィルターとなる。
定義 4 (超冪の構成)
$X$ を集合、$U$ を $\mathbb{N}$ 上の超フィルターとする。関数集合 $X^\mathbb{N}$ 上に、二つの関数 $f, g \in X^\mathbb{N}$ に対して、同値関係 $\equiv_U$ を以下のように定義する: $$f \equiv_U g \iff \{ n \in \mathbb{N} \mid f(n) = g(n) \} \in U$$ この同値関係による商集合 $X^\mathbb{N}/U$ を、$X$ の $U$ による超冪 (ultrapower) と呼び、${}^*X$ と表記する。各 $f \in X^\mathbb{N}$ の同値類を $[f]_U$ と書く。

注意 (超不連結空間との関連): 超フィルター全体の空間、すなわち $\mathbb{N}$ の Stone-Čech コンパクト化 $\beta\mathbb{N}$ は、位相空間論において、任意の開集合の閉包が開かつ閉 (clopen) になる空間、すなわち超不連結 (extremally disconnected) な空間の代表例として知られています。

2. 主定理とその証明

定理
$\mathbb{N}$ の非単項超フィルター $U$ による超冪 ${}^*\mathbb{N} = \mathbb{N}^\mathbb{N}/U$ の濃度は $2^{\aleph_0}$ である。

証明. Cantor-Bernstein-Schröder の定理を用いる。すなわち、$|{}^*\mathbb{N}| \le 2^{\aleph_0}$ (濃度の意味での不等式 $\le$)と $|{}^*\mathbb{N}| \ge 2^{\aleph_0}$ の両方を示す。

(1) 上限 $|{}^*\mathbb{N}| \le 2^{\aleph_0}$ の証明:
超冪 ${}^*\mathbb{N}$ は、関数集合 $\mathbb{N}^\mathbb{N}$ の同値関係 $\equiv_U$ による商集合である。商集合の濃度は元の集合の濃度以下であるから、 $$|{}^*\mathbb{N}| \le |\mathbb{N}^\mathbb{N}|$$ が成り立つ。ここで、$\mathbb{N}$ の濃度は $\aleph_0$ であり、$\mathbb{N}^\mathbb{N}$ の濃度は次のように計算される: $$|\mathbb{N}^\mathbb{N}| = \aleph_0^{\aleph_0}$$ 集合論の基本関係より $\aleph_0 \le 2^{\aleph_0}$ であるから、 $$2^{\aleph_0} \le \aleph_0^{\aleph_0} \le (2^{\aleph_0})^{\aleph_0} = 2^{\aleph_0 \cdot \aleph_0} = 2^{\aleph_0}$$ となり、$|\mathbb{N}^\mathbb{N}| = 2^{\aleph_0}$ を得る。したがって、 $$|{}^*\mathbb{N}| \le 2^{\aleph_0}$$ が成立する。

(2) 下限 $|{}^*\mathbb{N}| \ge 2^{\aleph_0}$ の証明:
${}^*\mathbb{N}$ の濃度が少なくとも $2^{\aleph_0}$ であることを示すために、無限二進列の全体 $2^\mathbb{N}$ (濃度は $2^{\aleph_0}$)から ${}^*\mathbb{N}$ への単射を構成する。 便宜上、超冪の添字集合を $\mathbb{N}$ と対等な可算無限集合 $D$ に置き換えて議論を進める。$D$ を以下のような有限二進列の直和として定義する: $$D = \bigcup_{n=1}^\omega \{n\} \times \{0, 1\}^n$$ 各 $n \in \mathbb{N}$ に対し、$\{0, 1\}^n$ は長さ $n$ の二進列全体の集合であり、その大きさは $2^n$ である。したがって $D$ は可算無限集合の可算和であり、$\mathbb{N}$ と対等である。$\mathbb{N}$ 上の非単項超フィルター $U$ は、$D$ 上の非単項超フィルター(有限集合を一切含まない超フィルター)と同型に対応させることができる。以下では、この $D$ 上の超フィルターを改めて $U$ とおく。 各 $n \in \mathbb{N}$ について、$\{0, 1\}^n$ から $\mathbb{N}$ への単射 $\phi_n$ を任意に一つ固定する。例えば、二進表現に 1 を加えることで、値域を $\{1, 2, \dots, 2^n\} \subset \mathbb{N}$ とすることができる。 ここで、任意の無限二進列 $\alpha \in 2^\mathbb{N}$ (すなわち $\alpha: \mathbb{N} \to \{0,1\}$)に対し、関数 $f_\alpha: D \to \mathbb{N}$ を以下のように定義する。 $\alpha \upharpoonright n \in \{0, 1\}^n$ を $\alpha$ の最初の $n$ ビットからなる有限列とする。$(n, s) \in D$ (ただし $s \in \{0, 1\}^n$)に対して、 $$f_\alpha(n, s) = \phi_n(s \oplus (\alpha \upharpoonright n))$$ と定める。ここで $\oplus$ は長さ $n$ のビット列同士の成分ごとの排他的論理和($\pmod 2$ の加算)を表す。 いま、相異なる二つの無限二進列 $\alpha, \beta \in 2^\mathbb{N}$ ($\alpha \ne \beta$) を任意に選ぶ。$\alpha \ne \beta$ であるから、ある最小の自然数 $N \in \mathbb{N}$ が存在して、$\alpha(N) \ne \beta(N)$ となる。これにより、任意の $n \ge N$ に対して、初期切断は不一致となる: $$\alpha \upharpoonright n \ne \beta \upharpoonright n$$ 排他的論理和の性質から、任意の $s \in \{0, 1\}^n$ に対して、 $$s \oplus (\alpha \upharpoonright n) = s \oplus (\beta \upharpoonright n) \iff \alpha \upharpoonright n = \beta \upharpoonright n$$ が成り立つ。いま $n \ge N$ において $\alpha \upharpoonright n \ne \beta \upharpoonright n$ であるため、すべての $s \in \{0, 1\}^n$ について、 $$s \oplus (\alpha \upharpoonright n) \ne s \oplus (\beta \upharpoonright n)$$ が成り立つ。$\phi_n$ は単射であるから、両辺を $\phi_n$ で移した値も異なる: $$\phi_n(s \oplus (\alpha \upharpoonright n)) \ne \phi_n(s \oplus (\beta \upharpoonright n))$$ すなわち、任意の $n \ge N$ および任意の $s \in \{0, 1\}^n$ に対して、 $$f_\alpha(n, s) \ne f_\beta(n, s)$$ が成立する。 二つの関数 $f_\alpha$ と $f_\beta$ が一致するようなドメイン $D$ の元の集合を $E$ とおくと、上の議論から、 $$E = \{ (n, s) \in D \mid f_\alpha(n, s) = f_\beta(n, s) \} \subset \bigcup_{n=1}^{N-1} \{n\} \times \{0, 1\}^n$$ となる。右辺は有限集合の有限個の和集合であるため、有限集合である。したがって、その部分集合である $E$ も有限集合である。 $U$ は非単項超フィルターであるため、いかなる有限集合も要素として持たない。ゆえに、 $$E \smallsetminus \varnothing = E \notin U$$ である。超冪における同値関係 $\equiv_U$ の定義より、 $$f_\alpha \equiv_U f_\beta \iff E \in U$$ であるから、$E \notin U$ より $f_\alpha \not\equiv_U f_\beta$ を得る。 これにより、対応 $\alpha \mapsto [f_\alpha]_U$ は、濃度 $2^{\aleph_0}$ の集合 $2^\mathbb{N}$ から超冪 ${}^*\mathbb{N}$ への単射となる。したがって、 $$|{}^*\mathbb{N}| \ge |2^\mathbb{N}| = 2^{\aleph_0}$$ が示された。

以上、(1) および (2) より、Cantor-Bernstein-Schröder の定理から、 $$|{}^*\mathbb{N}| = 2^{\aleph_0}$$ であることが証明された。 (証明終)

3. 補足と応用

ウルトラプロダクト (ultraproduct) やウルトラフィルターの理論において、可算な代数構造の非単項超フィルターによる超冪をとると、その濃度が連続体濃度へと「ジャンプ」することは極めて普遍的な性質です。例えば、実数体 $\mathbb{R}$ の超冪 ${}^*\mathbb{R} = \mathbb{R}^\mathbb{N}/U$ もまた濃度 $2^{\aleph_0}$ を持ちます。これは、超実数体 ${}^*\mathbb{R}$ が標準的な実数体 $\mathbb{R}$ よりも遥かに多くの元(無限大や無限小)を含むにもかかわらず、集合としての濃度自体は $\mathbb{R}$ と同じ連続体濃度にとどまることを意味しており、超準解析のモデルを構築・運用する上で決定的な役割を果たしています。

参考文献